数年前、刺青の治療法を学会で発表する機会があり、刺青の歴史を調べてみました。刺青と言ってもいろいろあることを知らされました。
「刺青」とは皮膚に創をつくり、それに色素を故意に沈着させて図形や文字をあらわす方法とあります。文身(ぶんしん)・入れ墨・がまん・彫り物・もんもんなど色々な名称で呼ばれています。
「刺青」は谷崎潤一郎の小説「刺青」以後に使われはじめた言葉で、肌に墨を入れると青く変化することから刺青と表現されました。まだこの本は読んでいませんが、刺青師清吉が美女の背中に己の魂として刺青を彫り込むというストーリーとのことです。時間ができたら読みたいと思います。
「文身(ぶんしん)」という言葉は大変古く、日本書記にも記されていて、江戸時代の書誌には多く出ています。成人や婚姻など儀礼多岐な目的で肌に加えられた身体的装飾として考えられていました。外国の部族が婚礼や儀式の前に行っているのをテレビで見られたことがあると思います。多ければ多いほうが良いようです。
「入れ墨」はテレビや映画の時代劇に見られるように、刑罰として罪人の腕に2本もしくは3本の輪を彫りこんだものです。江戸時代には、江戸追放などの付加刑として行われました。
以前、腕に1本の黒い輪の刺青の女性が治療に来られました。江戸時代でしたら罪人と思われてもおかしくないのですが、現在はファッションとして考えられているのが不思議な気がします。ちなみにこの女性の刺青は2回に分けて切除しました。
「がまん」と聞いたら、若い人がタバコの火を体につけてその痛み耐えることだと思っていましたが、刺青のことだとは知りませんでした。麻酔をしないでハリを刺して、そこに墨を入れるのですからがまん「我慢」が必要で、当然といえば当然ですが。
話が脱線しますが、「がまん」の跡の治療に親御さんと来られる高校生がいます。治療はその分部を切り取り縫合するのですが、麻酔をしますので手術中は痛くも痒くもありません。
ある時、患者さんが前もって麻酔をしていたらもっとかっこよく「がまん」ができたのに言っていました。それを聞いて、痛ければ今後やらないだろうと考え、患者さんには悪いとは思いつつも、親心で麻酔を少なめに注射し手術を始めました。結果はお分かりのように、痛みを伴うことになり、患者さんは泣き出してしまいました。これでもう「がまん」は行わないだろうと考え、麻酔を追加してやりました。
意地悪い医師と思われるかもしれませんが、馬鹿なことは今後して欲しくないと思ったからです。
「彫り物」は、江戸時代の近松門左衛門の「女殺油地獄」に出てくるもので、自ら好んで肌に施した装飾的なものをいいます。現在では日本式の刺青をさす意味合いが強いです。火消し、籠かき、船頭などのout low の社会でブームになりました。テレビでおなじみの「遠山の金さん」の背中の桜吹雪は、この彫り物に当たります。そしてお白砂で裁かれた罪人は、入れ墨を入れられて島流しになるわけです。現代では同じ刺青なのですが、裁く方と裁かれる方でその意味が異なるのは面白いですね。
さて、この「遠山の金さん」の背中の桜吹雪の刺青を見るたびに、どのような方法で取り除くことができるかと考えるのは私だけでしょうか。背中一面、多色刷り、裁判では必ず背中を見せる・・
・・結論はそのまま大切に残しておいたほうが一番良いようです。治療をしたとしてもかなりの傷痕が残りますので、かっこよく背中の傷痕を見せるのはできなくなります。このようなことを考えながらテレビを見ても面白くありません。正義の味方は刺青があったほうがかっこよいですね。
一方、TATTOOの語源はポリネシア系の創傷、マークの意味の「tatau」より発生したらしいといわれています。
さてこのtattooの意味には別の意味があります。オーストラリアに留学してすぐに、近くのピーチで「world tattoo festival」が開催されると聞き、一度はその世界を見てみたいと思い行ってみた。日本からも多くの彫師や刺青マニアがたくさん来ていると思っていましたが、刺青をした人は一人もいず、代わりにマーチングバンドがたくさん集まっていまいた。
Tattooには楽隊の意味がありした。留学直後の恥ずかしい経験でした。
最近見かけた「tattoo 」という雑誌に国内の各地でtattooコンベンションが開催されているとありました。これは本当の「刺青フェスティバル」で、多くの刺青ファンが集まって交流をはかる催しものでした。一度参加しみたいと思っています
私は個人的には刺青を非難しませんし、むしろ作品としてみるのは好きです。芸術としてみるとかなりの評価があります。また、外国でも高く評価されており、外国の彫り師でわざわざ日本に修行に来る人もいるとのことです。これも日本の芸術だと思います。
ただ、日常生活には支障があることも事実です。
皆さん、どのように考えていますか。